ノーマ・ルイーズ・ベイツ役 日野由利加さんインタビュー

『ベイツ・モーテル』でノーマの吹替えに決まった時のお気持ちは?
まず『ベイツ・モーテル』というタイトルに、「ん? 聞いた事があるな」というところから始まって、そうだ、『サイコ』だ! と。私、ヒッチコック監督の作品の大ファンだったので、子供の頃からすごく観ていたんです。あの頃のモノクロのフィルムって名作も多いですが、そんな名作の前日譚をドラマ化したと聞いてなおさら興味が沸きました。もうこれはエラい事が起こったな、って(笑) 嬉しい反面、すごくプレッシャーもありました。ディレクターの高橋さんからいろいろお話を伺っていく中で、すごく熱意を持ってディレクションしていきたいという想いも伝わってきましたし、ドラマが持つ異常性だったり、サスペンスだったりを、60年代の雰囲気を残しつつも現代的にやっていくというのは非常に大変な事だなと、この辺りはとてもプレッシャーでしたね。

実際に作品を観た印象は?
まずあの丘の上に建つ屋敷やモーテルがすごくリアルに再現されていて、あの木の湿ったような匂いやカビ臭さまで伝わってくるような感じがすごいんです。なのにそんな雰囲気の中で突然携帯を持ったキャラクターが登場するのが不思議な感じでちょっと違和感があったんですけど、演じる上ではこの過去と現在が混在した雰囲気が、いい余白になっていて、その余白の部分でカールトン・キューズは心理的な事を表現しようとしているのかな、と思いました。今回私は母親役ですが、ストーリーは息子世代が中心で、オリジナル版には出て来なかったキャラクターもたくさん登場するんですけど、そういう人たちが新しい風を吹き込んでくれて、そのギャップの中で上手くやって行けるんじゃないかと感じました。

視聴者はオリジナル版でノーマがどんな風になっているのか、その結末を知っている中で、こうして若く美しいノーマがどんな人物なのかというのはすごく興味を引くと思いますが、役作りとして意識した点はどんなところなんでしょう。
第1話の時は、あまり狂気のようなものは見せず、どちらかと言えば母性の方を意識したんです。彼女には秘めた強さもありますし、だけどノーマンに対しては自分の弱さを見せている部分もあるんですよね。ある意味母性で訴えかけるようなところがあるんです。でも狂気を出した瞬間はガラリと変わる。息子のためならどんな事をしても、全て正当化してしまうんですね。どんな理屈をつけても息子を守るんです。そういうのめり込みすぎるところが彼女の異常性になるのかもしれないんですけど、母性という点ではただただ息子を守りたいという想いは外さないようにしつつ、狂気のスイッチが入ると切り替わる、という感じで今は様子を見ながらやっています。

海外ドラマの場合、シーズンを重ねていくうちにキャラクターもいろいろと変化していくものですが、そういうキャラクターを演じるやりがいというのはどんなところにありますか?
作品にもよりますけど、『ベイツ・モーテル』に関しては、キャラクターと一緒に成長していくというより、私の未知数をいかに引き出していくかというところに懸かっていると思っています。ノーマのノーマンに対して固執している部分というのは単に母としての感情ではなく、女としての部分というのがチラチラ見えているんですね。女としても彼を支配しようとしている。今回、このドラマのオリジナル・キャラクターとして、ノーマのもう一人の息子が出て来るんですけど、彼がノーマンの良い部分、悪い部分、どちらを引き出す人物なのかはドラマの進行上まだ判断はつかないんですが、少なくともノーマにとっては、彼が登場する事によってノーマンが新しい世界に触れて自分から離れていくという危機感を覚えているように思えるんです。そういう彼女の心情をいかに汲み取っていくか、ですね。

特に気に入っているシーンや注目して欲しいセリフはありますか?
第1話でノーマはいきなり酷い目に遭うんですが、その後ノーマとノーマンが交わす会話のシーンでのノーマンが可愛くて印象的なんです。彼は「お母さんとは一心同体なんだ、お母さんのいない人生なんて考えられない」みたいな事をあのつぶらな瞳で語りかけるんです。ノーマの方も「私にとってもあなたが全てなのよ」と答えるんですが、そのシーンがこの作品の根底に流れるものを象徴するシーンなんじゃないかって思いましたね。

それだけノーマンとのコンビネーションは重要になってくると思いますが、息子役の岡本信彦さんの印象は?
岡本さんはすごくピュアな人で、ノーマン役にはピッタリだと思います。なんだかTVの画面を見てても、岡本さんを見ててもどっちがどっちなのか分からなくなってしまうくらい(笑) 今回初めてご一緒させて頂いてるんですが、そんな気が全くしないくらい、すっと馴染みましたね。

特にこのドラマは最終的にノーマンが殺人鬼に至るまでに何が起こるか、全く先が読めないですが、吹替の現場で先の展開を予想したりはしますか?
しますね(笑) 次の週の台本が来る前からみんなであーだこーだと話しています。個人的にはノーマンが意外とモテるので(笑)、ノーマがすごく嫉妬するんですね。先ほど話したノーマの母として、女としての女の部分での嫉妬感がすごいので、そのノーマンを自分の元に引き戻すために彼女はまたきっと相当すごい事をするんだろうなとは思っています。そういえば第1話で結構衝撃的なセリフがあって、初回で酷い目に遭った後、彼女はノーマンに謝るんですよね。それについては私としてはかなり理解不能だったんですが、そういうところからしても、彼女はノーマンを男としてどこかで意識しているんですよね。

ノーマは型破りなキャラクターですが、そんな彼女に共感を覚える部分とはどんなところなんでしょう?
きっと、母性という点では彼女も世の母親とそれほど変わらないんだと思うんです。ただそれが行き過ぎてしまったり、愛情の示し方をちょっとはき違えているだけなんですよね。多分ノーマは今まであまり愛されてこなかったし、愛し方もよく分からないんじゃないかな。そういう意味ではちょっと可哀想かなと思います。だけど、1人殺しちゃったらもう2人でも3人でも同じなのかな、と思えてしまうくらい、なんか無感覚で人を殺すんですよね、彼女は。そこはやっぱりおかしいなと。多重人格なのかしらと思ってしまいますね。

登場人物の中で気になるキャラクターはいますか?
ノーマのもう一人の息子ディランですね。彼はノーマの最初の夫との息子なんですが、そもそも最初の夫がどうなったのかも謎なんですね。ノーマンの父親がどう死んだのかというのも追々明らかになるんですが、そこにノーマがどう関わっているのか、彼女が殺したのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、それまで疎遠だったディランがわざわざノーマの元に舞い戻ってきて生活を始めるのも、ひょっとしたらディランの復讐かもしれないんですよね。ノーマの大事なノーマンを自分の味方につける事によって復讐するつもりなのか、それともディランはディランなりにノーマに対して執着があって、2人の間に入り込もうとしているのか、いろいろ妄想が膨らむんです。

最後にドラマを観る方に一言
もちろんノーマとノーマンの親子関係にも注目して欲しいんですが、今回はそれ以外にもかなり伏線が貼られていて、いろんな枝葉があるんですね。まずは新しい扉を開けていろんなものを見たいというノーマンの思春期の男の子らしい青春の姿も見て頂きたいです。あと、この町自体もちょっとおかしいんですね。見続けていくとその異常性が分かってくると思うのですが、ノーマンがノーマにいかに懐柔されて、最終的にあの殺人鬼になっていくのかという根本的なサスペンスに加えて、町全体のサスペンスもあるので、そういう部分にも注目して頂きたいですね。